2006年05月09日

著作権メモ

著作権や著作権法の問題を調べようとすると、必ず出てくるのがアメリカの事例のようだ。おさらいしてみよう。

まずは何といってもベータマックス訴訟だろう。1976年に始まり1984年にソニーが辛勝したこの裁判は、タイムシフト、フェアユースなどの概念を世間に知らしめた。ユニバーサルとディズニーが「著作権に付随する独占的複製権を侵害している」として家庭用 VTRを訴えたのに対し、ソニーは日本の著作権法にある「私的複製の例外」を「家庭での録画は、複製と言うより視聴する時間を移動しているにすぎない」というフェアユース概念に昇華し、抵抗した。それぞれの陣営はロビイ活動に奔走したが、すでに売り出されている製品に対する消費者団体の取り込みが奏功したのか、最高裁ではぎりぎりの裁定でソニーが勝訴した。歴史上に残る一件なのかもしれないが、争いの最中からセルのみならずレンタルビデオ屋が繁盛していたことを思い返せば、カネの力でずいぶんと健闘したとは言え、ユニバーサルとディズニーの低脳ぶりが露呈した裁判であったとも言える。

知的所有権つながりで、ベータマックス訴訟と共に言及されがちなのがオートフォーカス訴訟。一世を風靡した AF一眼レフ「αシリーズ」は自身の持つ基本特許を侵害しているとして、ハネウェル社がミノルタを訴えたのが 1987年。1992年の結審後、ミノルタはαの販売額の 10%などを根拠に、一億ドル以上を支払うことになった。その他の日本企業も続々と賠償金を支払う中、キヤノンとリコーとだけがハネウェル側の技術を調べ、明示非明示の違いはあるが結局賠償金の支払いを拒否できたことも有名で、これを「特許戦略の重要性」として説かないセミナー屋はいないようだ。しかしこれもまた、米国式陪審制度に技術への無知を添えた茶番にすぎないとも言えるだろう。「日本人がアメリカから盗んだのだ!」など弁護士が当時の風潮を煽ったという話も散見されるが、それは事実とは異なるらしい。それよりも何よりも、もともとのハネウェル特許が「新規性なし」という理由で日本の特許取得ができなかったことが全てを物語っている。ブランコの横こぎでも特許が取れる国なのだ。

そう言えばアマゾンのワンクリック特許も、日本では却下された。特許関連の歴史はWeb上にあふれている。

特許は脇に置き、著作権に戻る。ハリウッドはフェアユース概念が一般化したのを見て、ビデオソフト上のマクロビジョン重畳を実施、その後VTRへのマクロビジョン積極対応(マクロビジョン検出チップ)を事実上強要した。さらにケーブルSTBへのマクロビジョン追加、オーディオデバイスへのSCMS、デジタル放送でのMPEGコピーコントロールおよびその出力へのCGMS-A強制、CSS騒ぎなどを経て、ブロードキャストフラグやミッキーマウス保護法、DMCAに至る。ただ、ブロードキャストフラグは消費者団体によりひっくり返されたようだ(著作権法に「私的複製」項目のある日本の個人の方がMD課金やデジタル放送のコピーワンス運用などでガチガチに縛られているのが滑稽である)。

著名な作曲家も、新しい楽器を作り出すところから始めはしない。音楽を聴いたことがない作曲家は存在しないといっていいだろう(ゲージツの試みとか話題づくりのみの目的ではいたかもしれないが)。そう、権利者自身は自分の能力を知っているのだ。なのになぜ権利団体が騒ぐのか? もちろん、表現者の才能がない人の集まりは、ピンハネの世界でしか生きられないからだ。あら、数日前の記事に戻ってしまった。こ、これが結論なの? ちょっとかっこ悪いので書き方を変えてみよう。著作権を主張するのは結構だろう。しかしそれを、付随権益の確保・流通や自由貿易の阻害・保障されている消費者の権利への制限に使うのは間違っている。

JASRACがダンス教室やオリジナル曲を扱っているライブバーからまで徴収代行すること、徴収した1000億の配分も不透明なこと、MDのメディアと録音機・音楽CD-Rメディアの私的録音録画補償金制度やその拡張議論、CD規格に則っていないCCCDの強要、流通ソフトウェア開発技術者の逮捕、パッケージの再販制度、などを作曲者や演奏者が主張しているのを耳にしないのはなぜだろうか。

権利権利と「権利代行者」が騒ぎ立てるのは、何も日本だけではない。最近笑ったところでは、ARS(Artists Rights Society)がダリやミロのDoodle(グーグルのトップ画像)にケチを付けたことなんてのがある。椎名さんではないが、彼らには文化がどのように発展してきたのか、また故人はどう思うか、なんてところを考え直してもらいたいものだ。もっと俗っぽく「故人の誕生日をタダで祝ってくれるなんて、これで売り上げが増えるわ」でもいい。マルを三つ描いた途端に弁護士が飛んでくるという噂(笑)のディズニーも、創作と収入とのアンバランスさだけでなくプロダクションとして原作者を軽視しているという部分において、権利代行者の最悪な例と言えるかもしれない。

[*] フェアユース
アメリカ著作権法107条。批評や研究、教育目的などでの例外規定。日本の著作権法30条にある私的複製概念は明記されていない。

[*] マクロビジョン
VHSテープに記録されたコンポジット信号の同期部分に規格(1Vp-p/75Ω)を超えた輝度信号を挿入し、受け側(録画機)の AGC回路を誤動作させて録画させることによりダビング画質を落とすアイディアのことで、アンチテーピングと呼ばれたこともある。TVでは規格外信号も受け入れられるのに対し、VHSではテープに磁力で記録する原理上、入力信号を積分的に扱って有意なシグナルレベルを作り出して記録した方が画質的に有利である。この AGC回路という親切を裏切るように、マクロビジョンは画面外の同期パルス部分へ激しい輝度を重畳してそれ以外の映像部分のダイナミックレンジを圧縮させることで、結果として輝度の落ちた画像を録画させる。業務用の VHSデッキ・多くのベータやアナログ 8mmデッキ・1980年代頃以前の製品では、AGCが搭載されていなかったり offにすることができたりすることがある。

ある意味ハッキング的なこのアイディアも、重畳信号をダイナミックに変化させる(これによってダビング画像は明暗が変化)・カラーバーストにも手を入れる(これによって色が虹のように変化)などの機能追加後は、事実上単なる「マクロビジョン信号検出回路」をVHSに限らない録画機器に載せるだけの運用となった(実際、映像入力処理のICには、マクロビジョンからライセンスされた回路が入っている)。繰り返しになるが、この文脈でのマクロビジョンとは、アナログコンポジット(RCAピンの黄色いプラグやMini-DIN4のSプラグ)から入ってくるものを録画不能にするものであり、受け側の反応は「変化なし(古いビデオなど)」「画面が乱れる(もともと期待していた反応)」「録画不能(マクロビジョン検出ロジックによる)」となる。

以上のように、マクロビジョンとは「コンポジット信号の同期部分への細工」であるから、DVDそのものに掛けられていたりはしない(←多くのWebに間違った記述がある - DVDの動画は MPEG-2 PSは同期区間を除いた画像部分のみをエンコードする)。DVDプレイヤからアナログコンポジットを通じてのコピーができないのは、プレイヤがDVDに記録されたCCI(コピーコントロール情報)を解釈し、それを積極的にマクロビジョン付加信号として出力しているからに過ぎない。ここにももちろんライセンスが発生している。つまり、録画機の製造にも再生機の製造にも、そしてVHSの製造にもすべてマクロビジョンのライセンスがかかっているわけだ。

マクロビジョン社も、特許行使料が伸び悩む・権利が消滅するなどの危機感を持ったからか、最近は偽CD(CD規格から外れたディスクを作成することによって、PCに繋がれた CD-ROMドライブでのコピーやリッピングを防止するしくみ)へも手を伸ばしている。CCCDは全世界で大々的にプロモートされたが、ここ最近は下火のようだ。CDの出荷は増えているらしい。リッピングでCDが売れなくなった(これが偽CD導入の理由)、ネット配信でCDが売れなくなった、と騒いでいたレーベルに、今一度ご意見を伺ってみたいものだ。

[*] CGMS-A
コピー世代管理(Copy Generation Management System)のアナログ(Analog)適用。垂直同期信号内にフラグが重畳しており、受け側がそれを解釈する(解釈できない場合は、マクロビジョンと違って映像信
号にほとんど影響しない)。「デジタルのチューナがデジタル放送のMPEGビデオエクステンションにあるフラグを見て、アナログコンポジット出力にCGMS-Aを付加する」などの運用がなされているようだ。

[*] カラーストライプ
マクロビジョンによるコンポジット信号操作のうち、カラーバーストに手を加えて録画画像に色の変化をもたらすもの。マクロビジョンと分けてある記述が多いが、間違いである。

[*] CSS (Content Scrambling System)
DVDに採用されたコンテンツプロテクションのしくみ。当時のアメリカの法律により輸出できる暗号鍵長が40bitまでに制限されていたため、CSSを開発した松下も鍵長をその短さにせざるを得ず、これがXing TechnologyのソフトウェアDVDプレイヤの鍵実装の不備と共にDeCSSを生む土壌となった。LinuxにDVDプレイヤをもたらした直接の功労者であるノルウェイの少年は後付けの理屈で逮捕されてしまい、その後のDMCAなどへの布石となる。

[*] ブロードキャストフラグ
2005年7月からアメリカの地上デジタル放送のMPEG EITやPMTに含まれることになっていた、FCC強制のコピーコントロールフラグのこと。フェアユースでないもの(インターネットによる再配信など)を防ぐ意図であり、B-CASやコピーワンス運用など「縛り方向」の日本にくらべて大変に緩い規制であったが、それでもFCCは原告団体に負けた。FCCの巻き返しが注目される。

[*] 同期パルス
一般に平面メディアの走査は、画面に向かって左から右へ水平に掃かれた水平走査線が、順に下に下りて行き、1フィールド(垂直走査)が終わるとまた上に戻るということが繰り返されている。一本の水平走査を終えた輝点は急いで画面の左端に戻ることになるが、この戻る期間を HBIとか水平ブランキング期間と言ったりする。HBIが HBIであることを機械に教えるために、その中に映像信号と違ったパルスが入っており、それを水平同期パルスと言ったりする。具体的には、輝度信号がマイナス方向に振れるようになっている。垂直走査にも同様のVBIとか垂直ブランキング期間とか言われるものがある。



…うーん、調べている内にテレビのしくみとかコピーコントロールのしくみとかに入り込みつつあります。

ていうか、用語説明が異様に長くなりつつあります。表にでもまとめた方がいいでしょうか。



追記
posted by akko at 19:41| Comment(1) | TrackBack(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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